M.E.A.R.Lを運営するメンバーが、映画や書籍など様々な作品を通じて得た「町」や「まちづくり」に関する着想をレビューする本企画。第1回目は、M.E.A.R.Lプロデューサーの寺井元一による、映画『サウダーヂ』について。
Text:Motokazu Terai
Edit:Yosuke Noji
グラフィティライターは特殊な若者じゃない
昔、ストリートアートに関わる同世代、つまるところ深夜に暗躍するグラフィティライターを支援する活動をしていた。僕は彼らの媒介になるべく、市役所や警察、街の大人たちと通訳よろしくコミュニケーションするのが仕事だった。
グラフィティを巡っては巷で誤解が多い。ギャングの暗号、極悪な若者の不穏な企み、あるいは反体制メッセージかも。ライターは超極悪で特殊な若者だと思われていた。それは僕には、落合信彦ばりの陰謀論に思えた。というのも、総じて言えばライターの多くはギャングでも反体制でもなく、ただ悪戯や絵が好きなだけの、ごく普通のピュアな同世代だったからだ。僕が彼らと接する中で学んだことは、陰謀論の真実は、だいたい、ごくシンプルだ、ということだ。
しかし一方で、ライターはごく近しい人間だけを信じ、特殊な慣習――例えばシェイクハンドのような――をたくさん持つ人たちでもあった。真実に近づけるかどうかは、そのディティールを体感しているかどうかにかかっていた。
リアルがドキュメントされた作品『サウダーヂ』
僕が取り組んでいる「MAD City」から始まるまちづくりの核には、異なる人々を繋ぎ、媒介になって、彼らと協働してプロジェクトを実現させる側面がある。たとえば、アーティストと年配者、のように。
人は自分の想像もつかない異物と協働できない。恐ろしいから。でもそういう距離のある人と人が協働するところに、新しいアイデアや機会は生まれるものなのだ。どうしたら皆で陰謀論の誘惑から逃れ、ごくシンプルな真実を信じられるか? もし自分と全く違う人々のリアルを実感できる手法があれば、それはまちづくりにおける最高の教材だと思う。「サウダーヂ」はまさにそれだ。
この映画は地方都市を舞台に、出稼ぎの外国人労働者たちと、地方で鬱屈するストリートの若者たちを描く。おもしろいのは保証するが、特筆すべきは、この映画がストリートカルチャーに触れて生きる若者の、真実に近い姿を捉えていることだ。僕はそれを知っている。映画の中にストリートカルチャーにまつわる細部が散りばめられていて、陰謀論ではないピュアな若者の姿が、フィクションの映像でありながらドキュメントされている。そして、真実を知らないにせよ、そこに同じく映る在日の海外労働者の姿も、それ以外の諸々も、おそらく同じように真実に近いのだろうと僕は確信するのだ。
主演の田我流は俳優でもなんでもない、単なる一介のラッパーだ。しかし、市町村合併で名前を失った生まれ故郷をいまもレペゼンする彼が、この「まちづくり」映画に抜擢されたのはごく自然なことのように思える。DVDにもブルーレイにもならないこの映画は、いまも列島のどこかでひっそり上映されている。リアルを体感する、その機会を探ってほしい。
http://www.saudade-movie.com