佐賀県武雄市で、武雄温泉エリアを拠点に「TAKEO MABOROSHI TERMINAL」を運営する株式会社まちづクリエイティブと、家庭用食器から割烹食器に至るまで、幅広く華麗な陶磁器を佐賀県有田市で焼き続ける創業150年の老舗窯元・幸楽窯。そのコラボレーションプロジェクトとして始動した「転写民芸」。幸楽窯の持つ伝統と技術を用いて、様々なアーティストやクリエーターが有田焼に絵柄を転写するこのプロジェクトは、一体どのようなものなのか。
プロジェクト第1弾の参加作家は、たかくらかずきさん、シシヤマザキさん、小田雄太さんの3名。本特集では、まず自らクリエーターとして「転写民芸」を実践した、まちづクリエイティブ取締役で、COMPOUND inc.代表の小田雄太さんに、このプロジェクトのコンセプトや発足の経緯、技術面の解説や現地での交流、自身の作品、そして今後の展開について語ってもらった。
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Text:Haruya Nakajima
Photo:Yutaro Yamaguchi
Edit:Shun Takeda
レディメイド×クラフトワーク
新たな民芸品プロジェクト「転写民芸」発足の経緯
ーまず、「転写民芸」プロジェクトの発足について伺います。窯元である幸楽窯さんとは、どういった経緯でタッグを組むことになったのでしょうか?
小田 まちづクリエイティブが佐賀県武雄市で「TAKEO MABOROSHI TERMINAL」というプロジェクトをやっている中で、幸楽窯の社長である徳永隆信さんと知り合ったんです。とてもアンテナ感度が高い人で、最初はこのプロジェクトにも参加してくれたたかくらかずきさんのゲームをモチーフとした展示を見に来てくれました。まちづクリエイティブに対しても興味を持っていただき、すぐに仲良くなっていったんです。
ー幸楽窯は有田焼の伝統的な窯元ですよね?
小田 そうですね。古い小学校の校舎を使った大きな工房で、ワンストップで全工程を踏むことができます。職人さんもたくさんいて、棚には大量の器が並んでいる。幸楽窯は自身でも「アーティスト・イン・レジデンス」(芸術制作を行う人物を一定期間ある土地に招聘し、その土地に滞在しながらの作品制作を行わせる事業)を運営しています。いわゆる伝統的な窯元でありながら、独自のサバイブを試みている窯元でもあるんです。そこで、「まちづクリエイティブに幸楽窯でも何かやってもらえないか?」と相談をもらったのが、このプロジェクト発足のきっかけでした。
ーそこから「転写民芸」というアイデアはどのように生まれたのでしょうか?
小田 まず、幸楽窯は型を作れますから、レジデンスに来ているアーティストは型から作る人が多かったんです。でも一方で、型作りから入るとどうしても生産コストが高くなってしまい、大量生産品としない限り売る際の単価設定も高くなってしまう。そこで僕は、「アート – マルチプル – プロダクト」という考え方を用いました。要するに、「アート=一点モノ」、「プロダクト=大量生産品」、「マルチプル=その中間のエディション作品」と区分するんです。
僕はブランド作りにおいて、マルチプルを作れるということがとても大切だと思っています。一点モノや大量生産品は設備さえあればある種簡単に作れますが、マルチプルは難しい。大量生産するほど分かりやすくもシンプルでもないんだけれど、複製はできるモノ。そんなマルチプルには、ブランドの諸要素が最も集約されるのではないでしょうか。
もともと幸楽窯は、日用品を中心としたプロダクトと、一点モノとしてのアートを作れる窯元でした。そこで、マルチプルを作るプロジェクトを提案したんです。その際に、徳永さんから「幸楽窯は転写技術もすごい」と聞いて、サンプルを見せてもらいました。
ーいろいろなパターンを貼ることができるんですね。
小田 しかも、平面ではなく三次曲面に貼れるんですよね。これが複製できるって、すごいことじゃないですか。幸楽窯は一点モノのアートを作れるという点にオリジナリティがあったけれども、三次曲面を生かした転写は、例えばお椀や湯呑みに絵柄を転写するといったように、大量生産をするという前提がないと生まれない技術です。同時に、それは手張りを必要とするクラフトの技でもある。つまり、幸楽窯でなければできない技術なんです。この魅力的な技術をブレイクダウンして使うことができるのではないか、と。
ー幸楽窯ならではの転写技術に目をつけた。
小田 はい。これまでの幸楽窯とアーティストの関わり方は、まず器を作るところから始まりました。アーティストはレジデンスに滞在して器の作り方を勉強し、その上で制作する。つまりアプローチとしては、伝統工芸の枠組みからしっかりと制作することになる。でも既存の型を使って、転写による器作りができれば、制作工程がもっとポップになりますよね。しかも、幸楽窯には数千個の型があります。その大量の型の中から現地で自分に合う型を探すだけでも、陶器の成り立ちが見えるし、幸楽窯の歴史に触れることができるはずです。そこからアーティストは、自身のビジュアルやグラフィック、イラストを発想していけばいい。
ーなるほど。レディメイドな型に、ある種の複製技術としての転写を組み合わせることによってマルチプルな作品が出来上がるんですね。
小田 さらに、それによって参加できるアーティストの幅も広がりますよね。必ずしも立体作家である必要はないわけですから。初回に参加した3名のアーティストも、僕を含めて立体を作るタイプではありません。このような経緯で「転写民芸」のプランを練り上げたところ、徳永さんもすぐに理解を示してくれました。
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