転写民芸

私たちは陶器に挟まれて生きている|シシヤマザキインタビュー

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佐賀県武雄市で、武雄温泉エリアを拠点に「TAKEO MABOROSHI TERMINAL」を運営する株式会社まちづクリエイティブと、家庭用食器から割烹食器に至るまで、幅広く華麗な陶磁器を佐賀県有田市で焼き続ける創業150年の老舗窯元・幸楽窯。そのコラボレーションプロジェクトとして始動した「転写民芸」。幸楽窯の持つ伝統と技術を用いて、様々なアーティストやクリエーターが有田焼に絵柄を転写するこのプロジェクトは、一体どのようなものなのか。

本特集2回目のゲストは、水彩画風の手描きロトスコープアニメーションを独自の表現方法として確立し、世界的に活躍しているアーティストのシシヤマザキさん。このプロジェクトの一環として佐賀県武雄市に滞在し、実際に「転写民芸」作品を制作したシシさんに、陶芸をはじめたきっかけや幸楽窯での転写体験、そして自作に込めた思いを語ってもらった。

Text:Haruya Nakajima
Photo:Yutaro Yamaguchi
Edit:Shun Takeda

粘土を「こねる」のが陶芸、空間を「こねる」のがパフォーマンス

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ー実写の映像をトレースして彩色する「ロトスコープ」という手法を用いたアニメーション作品で知られるシシさんですが、以前から陶芸をやられていたそうですね?

シシ はい。2016年から都内の陶芸教室に通い始めました。もともと自分の個展に向けて陶芸作品を作っていたんですが、その展示が流れてしまって。でも、教室はやめなかったんです。その後で陶芸家の宇城飛翔さんと仲良くなったこともあり、彼が窯を管理している栃木県・益子町の窯元に通っているくらい陶芸にハマってます。

──そもそも、なぜ陶器というメディアを扱おうと思ったのでしょうか?

シシ もともと私は室内で静かに絵を描くより、動的なアクションを伴った表現が好きなタイプなんです。ロトスコープアニメーションは、まず自分が身体を動かして、それを動画に撮ることから始まります。所属するファストカルチャーユニット・1980YENでの活動も含めて、実際に舞台に上がってパフォーマンスもしています。

東京藝大在学中に課題で作った谷根千をテーマにしたロトスコープアニメーション作品


「幸せを運ぶ聖獣麒麟」をテーマにした作品を制作するキリンビールのプロジェクト

シシ 実は、パフォーマンスをすることと、陶器を作る感覚って、どちらも「こねる」という意味でリンクしてると思うんです。空間を身体で「こねる」、磁土を手で「こねる」。そんなイメージがあったから、陶芸の経験や知識は全くなかったんですが、自然にできるのではないかと始めてみました。

個展「舕 TONGUE」で展示された陶芸作品。photo / 梅田健太
個展「舕 TONGUE」で展示された陶芸作品。photo / 梅田健太
photo / 梅田健太
photo / 梅田健太
photo / 梅田健太
photo / 梅田健太

これまでもフィギュア作品などを作っていたので、造形自体に自信はありました。しかも焼き物になることで、ちゃんと劣化しないで長持ちするモノができる。「やるしかないぜ!」という気持ちでしたね(笑)。

「発掘」することからはじまる転写民芸のクリエイティブ

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──そんな陶芸の経験者であるシシさんには、この「転写民芸」プロジェクトはどう写りましたか?

シシ まず、たくさんの既存の型から好きなモノを選べるという点が良かったですね。益子の窯元では、手びねりで一から積み上げていって、その上に絵付けをしていましたから。もちろん形から作るのは好きなんですが、一方で「転写民芸」はすでに型ができているから、「選ぶの楽しそ〜」とうれしくなりました(笑)。

──それで実際に武雄市に出向いて、数日間滞在されたんですよね。

シシ そうですね。幸楽窯では最初に、大きな倉庫の中で一通り有田焼の作品を見せてもらいました。オリジナル作品や名品、量産品の型まで様々な種類があって、どれもヤバかったです。

次に転写の体験をしました。はじめに、型が山積みになってストックしてある棚から、自分の気になった器を引っ張り出してくるんです。まるで宝探し。さらに転写シートを選んで、自分で貼らせてもらったり、職人さんが貼っているところを見学させてもらったりしました。

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シシ 三次曲面に複雑な形を貼り付けるのは相当難しかったですね。水をつけて貼るので、思ったところにピッタリ貼れないんですよ。もっと面が凸凹した陶器だったら、その凹凸に沿って貼らないといけないので、簡単な技術じゃないんだと実感しました。だから、本当に職人技なんですね。その作業を職人さんがやってくれて、しかも量産してもらえるなんて、願ったり叶ったりですよ。

──このプロジェクトは現地での体験をキャッチアップできるアーティストを選定していますが、シシさんは武雄に滞在してみてどうでしたか?

シシ 改めて感じたのは、「陶器は発掘品なんだ」ということです。さっきも言ったように、幸楽窯では膨大な型のストックから「発掘」することが大事な要素になっています。

また、これは益子での体験で感じたことなんですけど、「窯から発掘する」というおもしろさもあります。ガス窯や電気釜で焚くとあまり感じませんが、薪窯で焚くと、あらかじめ自分で作った形も覚えているし、何が入っているか分かっているにもかかわらず、完成品が全く予想のつかない状態で出てくるんですよ。なんというか、すごく時間が経過した遺跡を発掘するようなうれしさがあるんです。

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シシ あと、陶器の材料のひとつである「磁土(じど)」も使ってみて神聖さを感じましたね。磁土のテクスチャーはすごく滑らかで、どこまでもホヤホヤ・ヌルヌル・スベスベとした、不思議なやわらかさを持っているんです。幸楽窯で、そんな磁土がピシッと成形されたキレイな磁器を発掘したのは、とても貴重な経験でした。

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