本特集3回目のゲストは、ドット絵やデジタル表現をベースとしたイラストやゲームなどを制作するアーティストのたかくらかずきさん。佐賀県武雄市のまちづくりプロジェクト・TAKEO MABOROSHI TERMINALにも関わるなど、以前から佐賀県武雄市に滞在したことのあるたかくらさんに、幸楽窯の印象や作品のコンセプト、そしてデジタルとフィジカルの関係について話を伺った。
Text:Haruya Nakajima
Photo:Yutaro Yamaguchi
Edit:Shun Takeda
デジタルベースの作家が出会った「枯れた技術の水平思考」としての転写
──たかくらさんは以前から幸楽窯の社長・徳永さんとは知り合いだったそうですね。
そうなんです。「MABOROSHI EXPERIMENT-マボロシ実験場-」というアートプロジェクトに参加して、佐賀県武雄市にある佐賀県立宇宙科学館・ゆめぎんがで仏教の世界観にインスパイアされた2Dシューティングゲーム『摩尼遊戯TOKOYO』のサンプルを展示したり、スケッチを展示したりしました。その時に、徳永さんとも交流する機会があったんです。そのあと、まちづクリエイティブの小田雄太さんから「転写民芸」プロジェクトのオファーをもらいました。
──実際に武雄に滞在して見学した幸楽窯は、どういう印象でしたか?
とにかく施設が大きくて、自然が豊かでした。スタッフさんたちが、自分の好きな有田焼の鉢で各々植物を育ててるのを見て、めっちゃいいなと思いましたね(笑)。
──今回の「転写民芸」は転写という技術を用いて作品を作るプロジェクトですが、そもそもたかくらさんは立体の作品を作られていた?
最近はあまりやっていませんが、もともと作っていました。大学の卒業制作では、日本画の画材を塗ったり、塩ビパイプに金箔を貼ったりして、ゲームに登場する武器のような立体作品を作りました。
だから、触れるモノを作るのには興味があったんです。陶芸もやりたいと思っていましたが、なかなか手を出せてなかった。ただ、転写というのは要するに「印刷」です。なので、デジタルをいかに出力するかという観点で、普段からデジタル表現を扱う人間としても興味がありました。
──デジタルが三次元のモノにプリントされるという行為に対して、興味があったんですね。
デジタルをベースに作品づくりをやってきている人間がどこかで必ずぶち当たるコンプレックスとして、マスターピースをいかに作るか、という問題があると思っています。僕が20代前半の頃は、美術業界ではただ印刷しただけでは「作品」ではないと言われたことが何度かありました。
じゃあどうすればデジタル環境で制作した「データ」を「作品」にできるのか。いろいろな試行錯誤や勉強をしていった過程で、印刷技術にも非常に興味を持ったのです。もちろん、その後は3Dプリンターやレーザーカッター、またそれらを手軽に利用できるFabLabのような施設が出てきて、ちょっとずつ状況は変わっていきましたね。
そうすると「デジタルでもいいじゃん」という時代の空気が生まれてきた。そんな時この「転写民芸」の話を聞いて、「そういえば転写って昔からある技術だ」と気づいたんです。実際に幸楽窯で焼き物を見ると、転写のクオリティがやっぱり高かった。絵柄が非常に細かいし、モコっとした物質感もあって、絵付けとの差が全然わからないんですよ。絵付けか転写か毎回予想が外れるくらいで、何よりそこがすごいと思いましたね。
──それはやはり職人さんの技術の賜物なのでしょうか?
もちろん職人さんの貼る技術もありますが、転写シートの特殊な印刷技術もあると思います。デジタル印刷とは違う歴史を辿ってきた伝統工芸の力があるからです。高いクオリティで出力し、しっかりとプロダクトに定着することができる。それにしても、「そもそもデジタルファブリケーションはここにあったじゃないか」という気持ちになりました。
──実際にたかくらさんも転写の体験はしましたか?
はい。楽しかったけど、大変でしたね。たとえ簡単な形でも、シート間の距離が近いところや、凹凸のある曲面、取っ手が付いている部分などは難しかったですね。一回水につけてそのまま貼らないといけないので、時間をかけられないんです。職人さんの技術を実感しましたね。
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