「器」という舞台で繰り広げられる、とある日の記録

──さまざまな器の選択肢があるなかで、今回このかたちを選ばれた理由を教えてください。
でっぷりとした楕円形で少し緑がかった色地と、なにを入れるのか想像しづらい絶妙なサイズ感に惹かれ選びました。高台や器の外側・内側など、立体的に図案を配置していく必要があるので、ふだん平面を扱う自分がチャレンジする意味があるのかもしれないと思いました。

──平面ではなく立体物に転写する絵柄を考えるにあたり実際にこの器をどう捉えていったのでしょうか。
もともと窯元・幸楽窯の倉庫でこの器を見つけたときは高台に縞模様が転写されていて、私の目にはそれが舞台の幕のように映り、器がひとつの舞台のように感じました。器の側面には連続する場面が展開されていて、その奥には書割のように風景があったらいいなと。器のなかに空間的広がりと時間の経過を内包できたら面白いかもしれないと思いました。
ヒントになったのは、もうひとつ幸楽窯で出会ったある「湯飲み」です。湯飲みの内側上部に細く風景が描かれていたのですが、飲むために手に取り顔を近づけると、本当にその風景のなかにいるような気分になれるんです。ひとつの「湯飲み」でもこんな表現ができることに興奮し、私が作るお皿も、風景や時間の流れが味わえるものにしたいという思いから絵柄を考えていきました。

──器に描かれている絵はシーンやストーリーが移り変わっていくんですね。この「舞台」で展開されていくストーリーについて教えてください。
「転写民芸」のみなさんと窯元を訪問したときに目にした、風景や花々を中心に絵柄を考えました。4月末で気候も穏やかで、幸楽窯の敷地内にある藤棚がちょうど見頃を迎えていました。その藤や、翌朝少し早起きして幸楽窯の周りをひとりで散歩していたときに見つけた植物、アヤメやカラスノエンドウを描いています。
植物を囲む枠の形はふだん私が描く人物の「目」から連想したものです。装飾を施した「窓枠」でもあり、「目」でもあります。
女の子は遠くの風景を眺めているものと前を向き歩いているものの2通りあります。窯元を訪れた時期はちょうどコロナ禍で少し息苦しさを覚えていて。久々の遠出で自然豊かな有田を訪れ、久しぶりに気持ちよく深呼吸をした記憶があります。その時に味わった空気や景色、散歩の体感を器にも纏わせたいと思い、女の子の動きと視線で表現しました。

──ご自身の体験と絵を繋げて絵柄にされたのですね。ふだん平面のキャンバスに描いているものと、転写し立体に起こすものでどのような違いを感じましたか?
ふだん絵を描くときは正面から見てもらうことを想像して描いていますが、器は、使う人が器を持ち上げたり口をつけたりするので、内側と外側の絵柄がどう影響し合うかなど見え方があまり想像ができず、届いたサンプルでそのバランスを確かめながら進めました。とくに色は、均等に塗りつぶされているものよりも、手で塗ったような色むらを出したいと思っていて。幸楽窯は転写でも色の濃淡やムラを表現できるので、私の器もそのようにリクエストをし、職人さんに調整してもらいました。

器の絵柄を考えながら想像していたのは、大きいおにぎりをドンっと置いたら似合うんじゃないかなと。背景に山があり、手前に立派なおにぎりが置いてあったら、日本昔ばなし感があって可愛いと思うんです。また、自分と器の距離によって風景の見え方が変わるのを体感してもらえたら嬉しいです。たとえばこの器でスープを飲んでみたら、器から口を離すときに自分が空を飛んでいるような感覚になるかもしれません。
絵を描く原点に立ち帰る。白い紙以外のものに絵を描くこと
──これから先、どのような作品に取り組みたいですか。
これまでは白い紙やパネルに描く作品がほとんどでしたが、2022年に函館で行った展示「FLAKES」では、身近にある紙、たとえば航空券のチケットや空港でもらう手荷物の紙の裏、映画館のパンフレットなどに絵をコラージュする試みをしました。
このような制作は初めてで、「絵を描くとはなにか」という原点に立ち戻る機会になりました。子どもの頃は裏面が白いチラシを見つけて描くことが「絵」だったのに、いつの間にか綺麗に水張りしたパネルの上に描くことが「絵」だと思うようになっていた自分に気付きました。気がつかぬうちに「絵」はこうでなくてはいけないという常識が自分の中に生まれてしまっていることに気がついたんですね。その凝り固まったところを積極的に崩していくことに今はとても興味があります。

──「転写民芸」を通してふだんの絵に変化はありましたか?
以前よりも物語性を意識するようになった気がします。また「FLAKES」のように、整った支持体以外に描く意識が生まれたことも、「転写民芸」で器に絵を描くチャレンジをさせてもらったことがどこかで影響していると思います。

──飾られる絵と日々使われる器。冒頭に伺った「絵」と「日記」の関係にどこか通ずるところがあるような気がします。
そうですね。もちろん絵を家に飾ってもらえて生活の一部になれるのが一番嬉しいですが、他の方法でも、私の絵を好きだと言ってくれる人や興味を持ってくれる人たちと、日々の生活のなかで交差できる機会を増やしたいと思っています。「転写民芸」がそのきっかけになってくれたら嬉しいですね。

PROFILE
寺本 愛(てらもと・あい)
1990年東京都生まれ。武蔵野美術大学空間演出デザイン学科卒業。
これまで自身が訪れた土地の風景や生活文化に、自身の記憶や体験、フィクションを重ね合わせた作品を制作する。平面作品を中心としながら、近年は日記を元にした作品も手掛けるなど、様々な手法で「生活すること」そのものを考察している。aiteramoto.com



